カテゴリー「読書」の12件の記事

『吉原御免状』隆慶一郎

昨年観た、劇団☆新感線『吉原御免状』の原作を読んでみた。
隆慶一郎の小説は何作か読んでいて、魅力的な人物が登場する痛快時代小説という記憶がある。
これが、作家デビュー作だそうだ。

宮本武蔵に育てられた青年剣士・松永誠一郎は、師の遺言に従い江戸吉原へ赴く。
そして、吉原成立に関わる《神君御免状》をめぐって、吉原と裏柳生との闘いに巻き込まれつつ物語が展開する。
誠一郎の出生の秘密や、徳川家康の影武者説などなど、魅力的な素材が盛りだくさん。(過ぎるほど!)

出てくるキャラクタの立ちっぷりが楽しい。
所々に濡れ場(吉原が舞台ですもの当然なのか)をいれて、飽きさせないサービス精神も素晴らしい。

歴史は変わらないけれど、伝えられていることが真実かどうかはわからない。実はこうだったのかもと思わせてくれるところが時代小説を読む楽しみのひとつ。
そんな楽しみを味わうことができた。

芝居とか映画を観た後に原作を読むと、登場人物のヴィジュアルが限定されてしまうのが難点だったりするのだけど、これは気にならなかった。それは、原作のイメージを損なっていないということではなくて、別の作品として読むことができたということ。
芝居と原作とで、同じエピソードを使っていはいるけれど、違う世界観を感じることができたのだ。原作ファンには、そこが物足りないところかもしれない。

『日本のみなさんさようなら』

『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』で今話題のリリー・フランキー
彼が、「ぴあ」誌上で94年11月29日号から99年5月10日号まで連載していた「あっぱれB級シネマ」をまとめた文庫。
1本の映画について、1ページをコラム、1ページをイラストと映画データ、という構成で紹介している。全て日本映画の173点。

リアルタイムで読んでいて、毎号楽しみにしていた。
文庫化された2002年、すぐに購入。最近、『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』が売れているせいか、これも本屋で平積みになっているのを見て、久々に本棚から取り出した。

前書『長一郎と良子』に激しく同意。当時は、「日本映画はつまらない」ということになっていた。そんな風潮を揶揄する「日本のみなさーん、さよならー」なのだ。

観たことがある映画だったら、納得できるし笑えるし、観たことがない映画なら、気になって観たくなるから、映画の紹介としてマルでしょう。
わたしのお気に入りは、『砂の器』。(64/65ページ)
もう笑うしかないけど、丹波哲郎と加藤嘉への愛があるということもよ〜くわかる。イラストもまた凄い。
他にも笑えるページ満載です。

リリー・フランキー作。文春文庫PLUS。

『モーツァルトは子守唄を歌わない』

各所で評判を耳にする森雅裕の第31回江戸川乱歩賞受賞作。
入手不可能だったけど、復刊ドットコムのでリクエストが集まって、めでたく復刊したもの。

楽譜に隠されたモーツァルトの死に関する謎に挑むのは、楽聖ベートーヴェンとその愛弟子チェルニー。

まず、題名に心引かれる。
そして、ベートーヴェンが探偵役という設定も面白い。
ベートヴェンは、偏屈で人嫌いというわたしが持つイメージ通りのようで、実は、かなり愛すべき人物に描かれている。愛弟子のチェルニーとの漫才のようなやり取りも楽しい。なんてたって、探偵役だから頭も切れるのだった。難聴の兆しが既にあるのが、ちょっと悲しい。

あとがきに、「この物語は創作であり、史実ではない」と書いてある。どうも、史実と違うと文句を言う人がいるらしい。この話しにとても説得力があるという証明だろう。

モーツァルトの死というと「アマデウス」を思い出すし、最近は、ミュージカル「モーツァルト」も観た。
あまり意外性がないかも、と思っていたけど、さすがにひとひねりしてあって、もしかすると、これが真実かもしれないと思ったりする。

楽譜を使った暗号にはあまりピンとこなかったけど、1809年のウィーンを楽しんだ。
魔夜峰央のイラストレーションが可愛い。以後、わたしのベートーヴェンとチェルニーのイメージはこのイラストになるかもしれない。

森雅裕作。ブッキング刊。

『ラッシュライフ』

金で何でも買えると思っている画廊オーナと一緒に仙台へ向かう新人女性画家。美学を持つ泥棒。ある男を“神”のように崇める若者。不倫相手との再婚を企む女性カウンセラー。リストラされて家族にも見捨てられ、職探しに疲れ果てた男。
それぞれの人生がそれぞれの視点で語られて、最後には交錯していることがわかる。

ちょっとずつ感じていた引っかかりが伏線となって、徐々に明らかになっていく展開がお見事。
気になって前のページに戻り、「なるほどぉ」と思うこともしばしば。
登場人物それぞれのキャラも立っている。この作者の書くイヤな奴って、本当にイヤだと思えるところが、スゴい。
重要な登場人物(?)である野良犬の描写もマル。

こういう手法の作品って、読み終わった後の爽快感があるのが良い。
もう一度読み返して、確かめたくなってしまうような構成。
確かに、エッシャーの騙し絵のような。。

昨年観た『運命じゃない人』という映画を思い出す。
この映画のほうが、各エピソードの焦点が絞られていたけれど、観賞後の爽快感は同じ。
観た後のロビーで、「アレは気づいた」とか「アレがアレだったのか」とか楽しそうに語り合っている人々を見かけたもの。

伊坂幸太郎作 新潮文庫

『レタス・フライ』

ショート・ショート5編を含む9編収録の短編集。

お目当ては、最後に収録された「刀之津診療所の怪」。
現在進行中の“Gシリーズ”キャラクタ、山吹、海月、加部谷の3人が初登場する作品。これから読んでしまった。
西之園萌絵が叔母たちと訪れた白刀島の診療所をめぐる怪しい噂に迫る。
謎のオチ自体は、短編らしいというか、森博嗣らしいというか。
森作品として、この本を最初に読む人もあまりいないのかもしれないけど、この短編自体のオチを「何なんだー!」って言ってしまう人もいるのでは?
わたしは知ってるから、ニヤリとしちゃうけど。
常々、「作品はどの順番で読んでも良い」と公言している作者ではある。まぁ、ひっかかった人は全部読んでね、という宣伝かも。

最初に収録された「ラジオの似合う夜」。これは、単体でも十分に成立する作品。
固有名詞が全く示されないが、読んでいくうちに“Vシリーズ”読者にはすぐにわかるように書かれている“彼”。
“Vシリーズ”で、優柔不断キャラだった彼の内面。これが面白かった。
この作品で示される謎のオチには、ちょっとう〜んだけど。それでも、森博嗣色がたっぷり。

どこを切っても森博嗣。ファンは満足できる短編集だと思う。

森博嗣作。講談社ノベルス。

『博士の愛した数式』

第1回本屋大賞受賞作が文庫化された。

80分しか記憶がもたない数学博士と、家政婦の“私”とその息子“ルート”の過ごした日々を綴る物語。

交通事故によって記憶力を失った博士にとって、“私”は常に「新しい」家政婦。
初対面の挨拶から始まる日々のなかで、それでも深まっていく親愛の感情、彼ら三人がお互いを慈しみながら過ごす様を、さりげなく繊細なエピソードの数々によって浮き彫りにしていて、素晴らしい。
博士が小さき者に示す無償の愛情に、しっかりと応える“ルート”。
博士が語る素数や完全数など数学の美しさに、心酔していく“私”。
変人である博士の魅力が、彼らを通して伝わってくる。

さざ波のように押し寄せるエピソードに、飲み込まれてしまったような読後感。

映画をみるつもりは今のところないので、さっさと読んでしまった。
キャスティングは、はまっているようにみえる。
この物語の空気感を出すことができれば、良い映画になるのではと思う。

小川洋子作。新潮文庫。

『赤緑白黒』

Vシリーズ最終作。
森博嗣のファンなので、新作が出たらすぐに購入している。Vシリーズはノベルス版で既に持っているのに、文庫の装丁(特に手触り)を気に入ったので、文庫でもそろえてしまった。これにておしまい。

最初の死体は、鮮やかな赤に塗装されていた。死んでいた男の名前は “赤井”。
次の死体は、緑色に塗られていた。
色鮮やかな連続殺人。

森作品ではいつも、ミステリィで重要視されている“動機”について考えさせられてしまう。
リアリティって何なのかについても。
そんじょそこらのことでは驚かないぞ、という体勢ができてしまっているのは、幸か不幸か。

そして、さりげなく示される驚きのオチ。シリーズ全体(それ以上か)に仕掛けられていた伏線。知っているので楽しく読むことができたけど。
全ての森作品を読み直したくなってしまうといったら、ネタバレなのかしら。

森博嗣作。講談社文庫。

『空中庭園』をよんだ

先日みた映画の原作を読んでみた。(映画の感想はここ

郊外のダンチで暮らす京橋家。その家族について、娘、夫、妻、祖母(妻の母)、夫の愛人、息子、と六人それぞれの視点で語られていく。

誰にでも一つや二つの秘密はある。もちろん、家族だからってその全てを知っているわけではないし、家族にだけは教えたくないことだってある。
「何ごともつつみかくさず、タブーをつくらず、できるだけすべてのことを分かち合おう」というモットーが、かえって秘密を重苦しいものにしてしまう皮肉。
語り手が変わることによって、浮き彫りにされていく虚ろさ。
家族って何なんだろうか?

映画も恐ろしかったが、ラストに希望の光を感じさせられた。
でも、小説は明るいような乾いた文体で淡々と進んでいて、更に恐ろしかった。

映画のパンフレットに、夫の愛人視点の続編が掲載されている。
映画によせている著者のコメント。
「家族っていったい何なのか。それを知りたくてこの小説を書いた。書いても見つけられなかった答えをこの映画は見せてくれた。」
その答えなのかな、と思わせられる短編だった。

角田光代作。文春文庫。

『13』をよんだ

ベルカ、吠えないのか?』という作品が気になったんだけど、とりあえず文庫からということで購入。

冒頭の一文が、グッとくる。

「一九六八年に東京の北多摩に生まれた橋本響一は、二十六歳の時に神を映像に収めることに成功した。」

橋本響一の生い立ちから話しは始まる。左目だけが色弱という特殊な障害のせいか、驚異的な色彩能力に恵まれた少年、響一。
ザイールの森から来た狩猟部族の少年ウライネと出会い、中学卒業後にサル学者の従兄とともにザイールに渡る。
一方、農耕部族の少女ローミは、白人の傭兵との出会いにより、聖母としての別人格を育んでいた。
そして、響一とローミは出会い、圧倒的な悲劇が訪れる。

というところまでが、第一部「13」。
息をもつかせぬ怒涛の展開。
狩猟部族と農耕部族の対立、森に棲む魔、土着信仰とキリスト教の融合。
特に、ザイールの部族が、白人(日本人も含む)の文明に霊力を見いだし、自らの力とするために取り込むという描写が興味深かった。

そして、第二部「すべての網膜の終り」。
どうなってしまうの〜??と思わせられたところで、突然、舞台はハリウッド。
新進映画監督と女優が登場して、映画作りの話しがはじまる。

とにかく、響一の造形が魅力的。
冒頭に出てくる「映像に収められた神」というのは、案外あっさりと提示された気がする。そこらへんも、ニクい。

久しぶりに、展開の予想ができない作品に出会った気がした。

古川日出男作。角川文庫。

『蘆屋家の崩壊』をよんだ

エドガー・アラン・ポーの「アッシャー家の崩壊」からきているだろうタイトルだし、幻想怪奇短編集と銘打ってるし、耽美な作品を想像して読んだら全く違うので驚いた。
三十路を越えて未だ定職に就いていない猿渡と「伯爵」という綽名の怪奇小説家が、豆腐好きが縁で結びつき、そして遭遇する事件を描く短編集。
猿渡の一人称で語られるお話しは、淡々とそして飄々としているのに、少しずつ歪んでいる。
「反曲隧道」の冒頭から、句読点のない文章のリズムに引き込まれてしまう。
「蘆屋家の崩壊」「猫背の女」「カルキノス」「超鼠記」「ケルベロス」「埋葬虫」と続く。
そして、最後の「水牛群」は圧巻だった。猿渡が苦しみから解放されるラストに心が打たれた。

津原泰水作。集英社文庫。

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