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『亀も空を飛ぶ』『わが故郷の歌』

新文芸坐の特集“アジア映画の輝きVol. 2 ー映画を通してアジアを見る”の2本立て。

評判はずっと耳にしていて気になっていたのに、何となーく縁がなくて観る機会を逃していた監督。それが、バフマン・ゴバディ監督だった。
この日のみのゴバディ監督2本立ては、願っても無いこと。新文芸坐に感謝!

今まで出会えてなかったことを嘆くよりも、今出会えた幸運を祝いたい。そんな気持ちにさせられる、本当に素晴らしい映画だった。
過酷な環境に生きる人々を残酷なまでのリアルさで描いてるのに、目を逸らすことなく見続けることができたのは、不思議なユーモアとどこか幻想的な表現が散りばめられているから。リアルな表現に衝撃を受け、ユーモアに笑い、ファンタジィに心を奪われつつ、ぐいぐいと物語世界に引き込まれた。


『亀も空を飛ぶ』
舞台は、イラク北部クルディスタン地方。2003年3月、イラク戦争前夜から始まる物語。

子供たちは地雷を掘り出し、それを売って収入を得ている。サテライトと呼ばれる孤児の少年が、子供たちのリーダーだ。サテライトは、地雷の値段交渉や、撤去を依頼する地主のところへの人員割り振りなど、大人顔負けのやり手振りを発揮して、子供たちから慕われている。サテライトの指示を真剣に聞く子供たちの力強い瞳が印象的。

子供たちの中には、手のない子や足のない子もいる。そういう子たちも含めた皆が、地雷を掘り起こすという危険な作業をしている。両手のない子が口を使って掘り出した地雷の信管を抜き取る、その緊迫感。そんな生活を余儀なくされている子供たちの、厳しく辛い現実を見せつけられて、ガツンと衝撃を受ける。

一方で、そんな悲惨な状況に置かれていても、底にある子供らしさは消えていないことを実感させてくれる、ちょっとした場面にホッとした。何かあると好奇心を剥き出しにしてワラワラと集まってきたり、サテライトが口にする英単語を聞く度に「それってどーいう意味?」と必ず聞く子がいたり、泣きながら自己主張したり。

Turtlescanfly 大人顔負けのサテライトは、孤児の少女アグリンに一目惚れした。水汲みを手伝ったり、彼女に物資を優遇したり、そのあからさまなアプローチは微笑ましくて、彼の初々しい恋心を応援したくもなった。しかし、成り行きはそんなに単純ではない。

アグリンは、両腕のない兄のヘンゴウと目の見えない赤ん坊と3人で避難してきた。アグリンとヘンゴウには子供らしさはなく、アグリンの瞳には”絶望”が、ヘンゴウの瞳には“諦め”が宿っているようにみえる。彼らにまつわる辛いエピソードが明らかになった時、その残酷さには涙も言葉も出る余地はない。

アグリンが断崖に立つ冒頭の場面が、再び映し出される。遥か遠くに見える雪を頂いた山々や広がる平原の美しさが、そこに立つアグリンの絶望を際立たせて切ない。
青い空を背景にしたショットや、盲目の赤ん坊が置き去りにされた霧に煙る地雷原。美しい場面の数々が悲惨な現実を薄めることなく存在していた。
特に、ヘンゴウの予知能力によってもたらされる幻想的な夢は、最も悲劇的な展開に直結するのだけれど、それはとてもとても美しいので、現実との対比に震えた。

公式サイト

監督/脚本/製作:バフマン・ゴバディ
撮影:シャーリヤル・アサディ
音楽:ホセイン・アリザデー
録音:バフマン・バニ・アルダラン
編集:モスタファ・ケルゲ・プーシュ、ハイデ・サフィヤリ
出演:ソラン・エブラヒム(サテライト)、ヒラシュ・ファシル・ラーマン(ヘンゴウ)、アワズ・ラティフ(アグリン)、アブドルラーマン・キャリム(リガー)、サダムホセイン・ファイサル(パショー)、アジル・ジバリ(シルクー)

Turtles can fly /Lakposhtha ham parvaz mikonand  2004  イラク=イラン

『わが故郷の歌』
舞台は、イラン・イラク戦争が終わった後の両国国境地帯。往年のクルド人民族音楽のミュージシャン、ミルザのもとに、イラクへ駆け落ちした彼の最後の妻ハナレが助けを求めているという知らせが届く。ミルザは同じミュージシャンのふたりの息子を無理やり引き連れて、イラクへと向かう。

ミュージシャン3人の道中は賑やかに始まる。7人の妻と11人の娘がいるアウダと、独身でオートバイを乗り回しているバラート。駆け落ちしてしまった人のための旅を渋り、ぶーぶー文句を言い続ける息子。文句などどこ吹く風の父親。3人が1台のオートバイに乗っての出発だ。

ハナレの情報を求めて、父子3人は旅を続ける。難民キャンプ、廃墟、村の結婚式。行く先々で、人々にリクエストされ(時には無理矢理)唄と演奏が始まる。陽気でパワフルな民族音楽が楽しい。

Maroonediniraq 途中で強盗にオートバイやら身ぐるみ剥がれたりしながら、更に旅は続く。国境に近づくにつれ、一面の雪景色が広がり、状況は厳しさを増して行く。ハナレの情報は細く頼りないけれど、ミルザは諦めない。この老人の決意の固さは、何なのだろう。
息子たちふたりそれぞれが未来へ続く希望を手にし、旅をやめる。そしてミルザは1人で旅を続ける。

クルド人大量殺戮の現場を過ぎ、難民たちのキャンプにたどり着いたミルザを待っていたのは、女たちの悲しみ。あれほど苦労してたどり着いたミルザは、遅かったとなじられた。化学兵器による攻撃でひどい傷を負ったハナレは、ミルザに顔をみせようとしない。その痛ましさ。
ハナレの小さな娘を託されたミルザが、雪の上に張りめぐらされた有刺鉄線の国境を静かに越えようとする、静かな静かなラストシーン。

賑やかに始まった旅が、静かに終わる。ミルザが託されたのも小さな希望だった。
生きる希望と音楽に満ちた素晴らしい映画。

公式サイト

監督/脚本/製作:バフマン・ゴバディ
撮影:サイード・ニクザート、シャーリアール・アサディ
音楽:アルサラン・カムカル
編集:ハヘデー・サフィアリ
出演:シャハブ・エブラヒミ、アッラモラド・ラシュティアン、ファエグ・モハマディ、サイード・モハマディ

Marooned in Iraq/Gomshodei dar Araq 2002  イラン

2007.1.6 新文芸坐にて

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コメント

こんばんは。
私もこの監督さん、観たことがないんです。
この特集、行こうかな~と思っていたんですが、最近めっきり引きこもり気味で…。
こちらのコメント読んで行けばよかったと思いました。
次の機会は逃さないようにしたいと思います。。。(最近そんなんばっかりな私でした)

わかばさん、こんばんは。
観たことがないのですね。これは、強力にオススメいたします。
『亀も空を飛ぶ』のほうは、アンゲロプロス監督のような神話的叙情を感じました。(後から反芻した時にですが。)
そして、『わが故郷の歌』にはクストリッツァ監督のガチャガチャ感を感じました。特に前半部分は、父と息子の賑やかな旅の描写が楽しかったです。
こういう出会いって、縁ですよね。これが上映された日は、冷たい雨が降っていて、とても寒かったのでした。ちょっと迷ったけれど、観て本当に良かったです。
またの機会があると良いですね。
わたしも、第一作目の『酔っぱらった馬の時間』を観たいです。

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同じ時代に同じ地球に同じ人間として生まれて来たのに、 どうして彼らばかりがこんなに辛い思いをしなくちゃならないの。 それが運命なんだから仕方ないと簡単に思うことはできない。 割り切れずにどうすることもできずにただやるせない思いが募る。亀は甲羅を脱げない。 2003年3月、米軍によるイラク侵攻が開始され、国境の小さな村に運命の時が訪れる。 イラクのクルディスタン地方を舞台とした21世紀の叙事詩 クルド人の人口は、国家をもたない民族としては世界最大の2000万~3000万人。 トル... [続きを読む]

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