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『太陽』

Thesun 面白く観ることができてしまった。意外なほどに。

終戦前後の昭和天皇を描いた作品。

“ソクーロフ色”とでも言おうか、独特のフィルタがかけられた映像のなかで展開する昭和天皇の日常生活は、とても興味深くて引き込まれた。

天皇が朝の食事をする場面から、映画は始まる。
侍従長に「私の体は君と同じだ」と言って、侍従長を困らせる天皇は、自分が人間であることを既に知っている。それでも、神として扱われ、人間であってはならない、ということは、どういう心持ちなのだろうか。
侍従長に対して「まぁ、いわば冗談だ」と、自らその会話を終わらせる天皇は、誰とも感情を分かち合うことができない、孤独な人間だった。

傍らには常に誰かが控えていて、天皇の行動を見守っていた。老侍従、侍従長など、日本側の人々だけではなくて、進駐軍の通訳、マッカーサーですら、天皇の行動を扉の陰からそっと見ていた。
男たちの熱い眼差しを見て、天皇が日本人にとって最大の“アイドル”である、ということを強く感じた。

侍従長が読み上げる予定通りに進む一日のようでいて、時制は進み、東京大空襲を経て、日本は敗戦を迎える。
大挙して押しかける無礼なアメリカ人。超然として、普段と変わらずに振る舞う天皇の姿に、観ているわたしも次第に好意を感じるようになってしまっていた。

マッカーサーからの贈り物“チョコレート”をめぐる場面での、「はい、チョコレート、おしまい」とか、微笑んでしまう場面も多数。

あまりにも幻想的で美しい東京大空襲の悪夢とか、庭に突然舞い降りた鶴とか、マッカーサーとの会談中に独りになった天皇が静かにステップを踏み、ローソクを消す場面とか、美しい場面も多数。

「もう神ではない」ことを決意したと、晴れやかに皇后に語る天皇。皇后との会話の場面は、愛情が通った夫婦の会話だと感じられて微笑ましい。
それに続く、ある“死”の言及と、それを聞いた皇后の表情は、天皇が神であったという事実を思い出させ、更にそこから人の世界へ踏み出させる決意に満ちていて、素晴らしかった。

天皇役がイッセー尾形でなければ、この映画は成立しなかっただろう。皇后役の桃井かおりも、最後の場面だけで鮮烈な印象を残した。

ロシア人のソクーロフ監督によるフィクションであるけれど、日本人であるわたしにも、これが本当のことだったかも、と信じさせるリアリティがある映画だった。

ソクーロフ監督の前作『ファザー、サン』(感想はこちら)を観た頃に、公開が決定して、とても楽しみにしていた。
シネパトスだし激混みということで躊躇していたら、拡大上映となったのでラッキィだった。

新宿ジョイシネマにて(公式サイト

監督:アレクサンドル・ソクーロフ
脚本:ユーリー・アラボフ
美術:エレナ・ズーコワ
音楽:アンドレイ・シグレ
出演:イッセー尾形、桃井かおり、佐野史郎、ロバート・ドーソン

SOLNTSE/The Sun  2005  スイス=ロシア=イタリア=フランス

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コメント

いわいさん、こんばんは~!
いつもながら、わかりやすくて的確なレビューですねぇ。
私はソクーロフ監督の作品を初めて見たのですが
アート色の強い作風だと聞いていたので、
ちょっと警戒して見に行ったのに、思いのほか素直な作りで、ホッとしちゃいました。

>皇后の表情は、天皇が神であったという事実を思い出させ、
>更にそこから人の世界へ踏み出させる決意に満ちていて
おっしゃる通りですね。
皇后が天皇の手を引いて、その場をさっさと立ち去ったのも
「新しい世界」に導いてるように見えました。

「明治天皇と極光(オーロラ)」のエピソードについては
いわいさん、どう思われました??
あれもフィクションなんでしょうけど、
科学者との対話で、
「日本で極光が見えることはありえません」と否定されても、
昭和天皇が完全には納得していない様子が
何だか、ちょっと心に残りました。
監督さんは何を表現したかったのかなぁ。

今年の新作洋画ではベスト3に入ってます。
ソクーロフの映画を大して見てないくせに、
こんな映画も作れちゃうのかぁとビックリしてました。
コメディ要素もふんだんに含まれ、
様々複雑な感情を抱きました。
ほんとアイドルのようでしたね。
息苦しいことは悲劇です。

ゆっこさん、こんばんは♪
わたしも、もっと不思議なのかと思っていたら、普通に面白かったことが意外でしたー。

>「明治天皇と極光(オーロラ)」のエピソード
それについては、
明治天皇がありえない極光を見たということ、それが神である印とするならば、「自分はやはり神の血筋であるということになるのか」とか、「しかし自分は神としての印を得ていない」とか、そういう葛藤があるのかな、と考えました。
自分が神なのか人間なのか、揺れているのかなー、と。

ロシア人なのに、日本人がみても全然ヘンじゃない日本を描いていて、しかも、考えさせられてしまいました。凄いです。ソクーロフ監督。

現象さん、こんばんは♪
わたしも、同じように感じました。
ソクーロフ作品をほとんど観ていないクセにです。
今度、新文芸座でオールナイトありますよね。心惹かれるけれど、ちょっとムリ。

軽やかなコメディ部分がたくさんあって、びっくりしました。ソクーロフ監督の好意的な視線を感じます。
わたしたち日本人は、外国の人たちが感じるよりもいろいろ感じてしまう映画だと思いました。外国の人たちが持った感想も気になります。
天皇は人間にはなったけれど、まだ象徴であって国民ではないのですよね。

キャー!!
いわいさん、ありがとうございます~m(__)m

そっか。
極光のエピソードは「現人神の血筋」にまつわるものねぇ。なるほど~。
>自分が神なのか人間なのか、揺れているのかなー、と
うんうん。確かに、そうかもしれません。
「常識では見えないハズの極光を、明治天皇が見たのはなぜなのか?」という天皇の問いに対して、
科学者が「明治天皇は、偉大な“歌人”であられましから」って適当にお茶を濁すでしょ?
あれもねぇー見ていて、なんか複雑な気持ちでした。
天皇が知りたい肝心なことを、いつもこうやって
周りの人たちは「ぼかして」真実を伝えない。
天皇は悲しい「裸の王様」で、そのことに、本人が早くから気付いているのが、さらに哀しいですよね。

こんばんは。
この作品のユーモアと美しさに私は「愛」を感じました。ソクーロフ監督がアイドル昭和天皇を持ち上げるという意味の愛ではないですが。
極光のエピソードについては、私は抜け落ちてました。なるほど、そういうメタファという解釈ができますね。
台湾に寄り道気味ですが、ホントはその前にソクーロフ大会を開く予定でした(笑)この監督も本数を観て、全貌が見えてきそうな気がするので、ゆっくり制覇を目指したいと思っています。

あ、文芸坐でオールナイトやるんですか^^;
なんだかそれを見る気力は僕にない…
徹夜だけでも体力使うのに、
ソクーロフの映画に費やそうものならどうなってしまうのだろう。
2キロぐらい痩せるかも。
それならそれでいいかもw

ゆっこさん、こんばんは。
>適当にお茶を濁す
この場面は、お茶を濁しているのではなくて、
こう言うしかないよなーと思ってました。

本当のことを言ったら、「見間違い」しかなくて、更にあるとすると「頭がおかしい」ということ。
で、「頭がおかしい」とすると、大正天皇にまつわる話もあることですし、その血が自分にも遺伝しているかも、ということが不安なのかも、と映画を観ている時に考えたことを思い出しました。

わかばさん、こんばんは。
ソクーロフ監督の視線は、暖かくて、確かに「愛」を感じました。
ロシアの監督が、愛を持って日本の天皇を描いている、というのが素晴らしいですね。

ソクーロフ大会ですかー。良いですね。
TV画面に集中できないわたしとしては、ちょっとムリそうですが。フフ
『モレク神』と『牡牛座』は、特に観たいです。

現象さん、こんばんは。
特に、『モレク神』を上映する 10/21は観たいのですよ。でも、前日まで旅行なのです。
『ファザー、サン』『モレク神』『マザー、サン』『ロシアン・エレジー』の4本立て!
凄いです。観たいです。
でも、消耗しますよねー。
多分、最初の『ファザー、サン』で撃沈ってかんじです。

いわいさん、しつこくコメントしちゃって
ごめんなさい(苦笑)。

いわいさんの指摘どおり、科学者はああ言うしかなかったですよね。
「お茶を濁す」という私の表現が不適切だったかも。スイマセン。
もう記憶があいまいなんですけど、
天皇がその後に
「たぶん、あなの言うことが正しいのだろう。でも、家族に伝わるこの話を、私は一概に否定することはできない」みたいな主旨のことを
言ってませんでしたっけ??
あれあ、何となくねぇ気になったのでした。

ゆっこさん、再コメント歓迎ですよん。
謝られてしまうと、恐縮ですー。
ゆっこさんは、そのエピソードからだけではなく、映画全体として、真実を伝えられていない天皇に、複雑な気持ちを抱いているのですよね。揚げ足取りみたいで、こちらこそ、スミマセン。

パンフ(購入してしまいました)に載っているシナリオによると、このタイミングで「わたしを不安にさせる」、と言ってます。
否定できない(本当だと考える)から、不安になるのだと思いました。

ヤンキーが天皇の写真をとろうとするところ、無礼だと感じない私がいてびっくりでした。もう、アメリカナイズされてるんですね(^^)。それと、通訳の青年が、天皇をあがめすぎるのが、ちと、奇異に感じました。そうか、そうとう、当時の日本人的感覚が、私のような年齢でも、わからなくなってるんですね、というか、私、団塊と呼ばれる世代ですが、感覚が違ってるのかもしれませんけど(^^;)

悠さん、こんばんは。
わたしは、ヤンキーが写真を撮る場面や天皇が車に乗る場面では、さすがのヤンキーでもこうではなかったのでは?と思ってました。
無礼だ!と怒るわけではなくて、少し引いて観ている感覚です。
通訳の青年は、マッカーサーに対してもかなりハッキリと主張してました。映画的に、アイドル=天皇の表現だと思って受け取りましたが、不思議ではありますよね。

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