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『あわれ彼女は娼婦』

巨大な白馬に体を委ねたジョヴァンニが、妹に対する愛を告白する美しくも禍々しい幕開け。天井と床の間に張られた無数の赤い紐が、血や運命に縛られた物語を予感させ、白馬の艶かしさが肉欲を連想させて、クラクラする。

中世のパルマ。ジョヴァンニは、妹アナベラに愛を告白する。ふたりは結ばれ、妹は子を宿す。それを隠すため、アナベラは貴族ソランゾへ嫁ぐことに。

近親相姦というタブーを扱ってはいるけれど、厳かで静謐な雰囲気が満ちていたのは、美しい舞台美術によるところが大きい。
照明に浮かび上がる白いカーテンが、風ではためく。その音がBGMのように彼らの愛を彩っていた。

エリザベス朝時代の英国人劇作家ジョン・フォードによる戯曲。主役の三上博史と深津絵里が語る文語調の硬質な台詞が美しくて、うっとり。

命懸けの愛を貫くふたりの姿は汚れなく純粋に見えるのに、彼らを取り巻く世間が俗悪で汚いのは、対照的だ。

アナベラの結婚相手ソランゾは人妻を誘惑し浮名を流す。
ソランゾに捨てられた人妻は復讐に燃え、ソランゾの召使を誘惑し、結婚式でのソランゾ殺害を謀る。
妻を寝取られた夫は自らの死を偽り、別人に変装して妻とソランゾへの仕返しを計画する。
アナベラへ求婚していたローマの軍人は、ソランゾと誤って別人を殺してしまうが、枢機卿に守られて無罪となる。
周囲の思惑や言動は、ドロドロとして醜い。

頭は弱いけれど心は純真なバーゲットとその従者が道化役で、場を和ませてくれたけど、前半で殺されてしまった。高橋洋と戸井田稔のコンビが泣かせる。
そして、凄惨な悲劇が待っているのみとなった。

登場人物のほとんどが死を迎える血みどろの展開は、壮絶で圧倒的。
妹の心臓を高く掲げるジョヴァンニの怒りが激しく胸に迫る。
ふたりの愛は、禁忌を犯しているということよりも、純粋であるが故にこの世では成就できないものなのだと思えた。

ソランジュ役の谷原章介は、端正な顔とスタイルが良いので舞台映えして美しく、存在感もバッチリ。でも、ちょっと台詞に負けていたようで、アナベラへの罵倒や、ラストの怒りが今ひとつ伝わってこなかったのが残念。
主役のふたりがとても良かったので、それに対抗するソランゾに求めるものは大きくなってしまうのだ。

登場人物のほとんどが破滅してしまうような物語は好きなので、満足。それにしても、とんでもなく激しい物語だった。

アナベラの養育者が梅沢昌代で、ジョヴァンニの相談相手の修道士が瑳川哲郎というのは、2004年の『ロミオとジュリエット』を思い出させるキャスティング。
そう考えると、何となく似ているような物語だと思いつつ観ていた。
松岡和子氏が語る「ジョン・フォードの後ろにシェイクスピアが見える」がプログラムに掲載されていて、興味深く読んだ。

来ていた芸能人のことをいつもは書かないのだけれど、ちょっとだけ。
藤原竜也が来場して、斜め前くらいに座った。芸能人が観劇する時ってスタッフみたいな人と一緒にいることが多いけれど、彼は本当に1人で来ていたのでびっくり。グループで来ていたオネーサマたちがキャーキャーと騒ぎ、無表情な彼に握手をせがんでいた。ちょっとイヤなかんじー。(オネーサマたちがです)
広末涼子も来ていて、彼に挨拶してた。彼女は2人連れ。
芸能人って大変ねー、と余計なお世話の心配をしてしまったのでした。


Bunkamuraシアターコクーンにて(公演情報

作:ジョン・フォード
翻訳:小田島雄志
演出:蜷川幸雄
美術:中越司
照明:原田保
音響:井上正弘
衣裳:前田文子
出演:
ジョヴァンニ(フローリオの息子):三上博史
アナベラ(フローリオの娘):深津絵里
ソランゾ(貴族):谷原章介
ヴァスケス(ソランゾの召使):石田太郎
ヒポリタ(リチャーデットの妻):立石凉子
プナータ(アナベラの養育者):梅沢昌代
バーゲット(ドナードの甥):高橋洋
フィロティス(リチャーデットの姪):月影瞳
ポジオ(バーゲットの従者):戸井田稔
枢機卿(ローマ教皇使節):妹尾正文
グリマルディ(ローマ紳士):鍛冶直人
リチャーデット(偽医者):たかお鷹
フローリオ(パルマ市民):中丸新将
ドナード(パルマ市民):有川博
ボナベンチェラ(修道士):瑳川哲朗

 

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コメント

藤原さん、俳優座で見ましたが、一人で見えてました。情欲に駆られた兄妹って感じで、最後まで行く、妹が大人の智恵を身に着けつつあるのに(ソランゾの策略を見抜いているのに)、まだ、キスを迫るジョバンニ。
結婚式に乗り込んでくるヒポリタ、最後の殺害シーン、バーゲットなんてのは、大衆演劇風って思ってみてました。舞台美術はよかったですね。

悠さん、こんばんは。
わたしには、情欲というよりはお互いに理想をみているような、あまり肉っぽくない関係のように思えました。
でも、それは演出のせいですよね。
舞台上で時間がどの程度経過しているのかがわからなかったので、彼らの蜜月がどの程度の期間続いたのか、最後の台詞までわかりませんでした。

いわいさん、TBとコメントありあとうございました!!
竜也君が来てたなんて、ちょっとウラヤマしいなぁ(笑)。

2004年の『ロミオとジュリエット』に設定が似てるとは、私も最初に感じました。
蜷川さん、きっと、あえてそうしたんでしょうね。
>命懸けの愛を貫くふたりの姿は汚れなく純粋に見えるのに、
>彼らを取り巻く世間が俗悪で汚いのは、対照的

そうですね。
これが蜷川さんが一番訴えたかったことなんでしょうね。
朝日新聞の劇評では「反体制」という言葉を使っていたけれど。

ん~でもワタクシには、ちょっと、重苦しくて
もたれる芝居でした。
まだまだ「オコチャマ」なわたし。(苦笑)

いわいさま
コメント&トラックバックありがとうございました。
確かに「ロミオとジュリエット」と印象の重なるお芝居でしたね。松岡和子さんのジョン・フォード論、私も興味深く読みました。
> 近親相姦というタブーを扱ってはいるけれど、厳かで静謐な雰囲気が満ちていたのは、美しい舞台美術によるところが大きい。
まったく同感です。美しい舞台美術や照明、流れるような台詞、役者さん達の熱演・・・どれをとっても上質の舞台でした。

藤原竜也くん、自分が出ないお芝居の舞台稽古も熱心に観に来る、と蜷川さんがほめてらしたそうですが、ほんとによくご覧になっているのですね。次は「オレステス」も控えているし、楽しみです。

>いわいさま
美しいブログをいつも拝見しております。高い感性と鋭い洞察に気後れしてなかなかコメント出来ませんでしたが,「あわれ彼女は娼婦」というきっかけができましたのでコメントさせて頂きます。
>妹の心臓を高く掲げるジョヴァンニの怒りが激しく胸に迫る。
>ふたりの愛は、禁忌を犯しているということよりも、純粋であるが故にこの世では成就できないものなのだと思えた。
間違いなくこれが主題です。愛の勝利を高く掲げる姿の痛ましさは胸に迫りました。
よろしかったら,また,お邪魔させて下さいませ。

ゆっこさん、こんばんはー♪
有名人が近くに座っていると、反応が気になって気が散ってしまうのが玉にきず。
今回は、休憩時間にトイレダッシュした時、靴を踏みそうなくらい後ろを歩いちゃいました。エヘ。

>まだまだ「オコチャマ」なわたし。
いやいや、派手な仕掛けに喜んでいるワタシの方がお子様かもですー。
ドロドロとか、グチャグチャとか、大好きなのです。
全員死んでしまう話も好きだし。

スキップさん、こんばんはー♪
近親相姦という言葉からイメージするものとは全く違って美しい舞台でしたね。
文語調の台詞に、はじめはとまどいを感じたのですが、その美しい響きにグイグイと引込まれました。
こういう上質の舞台を観ることができて、幸せでしたー。

藤原竜也の目撃情報は確かによく聞く気がします。
熱心なことは素晴らしいですね。
『オレステス』も楽しみですー。

とみさん、こんばんは。コメントとトラックバックをありがとうございました。

心臓を掲げるジョヴァンニが、わたしの目の前を通っていったのです。その激情に呑み込まれそうになりました。

褒めていただいて、ありがとうございます。独りよがりな感想ばかりなので、これからもコメントしていただけるとうれしいです。
よろしくお願いいたしますー。

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