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『愛より強く』

Gegendiewand 痛々しいほど激しい愛が心に突き刺さった。

人生に絶望し、荒んだ生活を送っているジャイトの前に現れた、若くて美しいシベル。保守的なイスラム教徒の家族から逃れるために自殺を図った彼女は、同じトルコ系ドイツ人のジャイトに偽造結婚を提案する。
彼女の切実な思いに触れ、彼女を救うために、渋々ながら結婚を承諾するジャイト。愛のない偽りの結婚生活が始まるはずだった。

歩くスペースすらないようなゴミ箱のような部屋に住み、酒に溺れ、自分を破壊する衝動を抑えられない男、ジャイト。人生への絶望を漂わせるギラギラした目が切なくて、心を掴まれてしまった。
ブレーキを踏まないで壁に激突するという、破滅的な自殺。そんな激しい行為で生を終わりにさせようとしていたジャイト。

結婚によって厳しい家族から解き放たれ、自由になったシベルの目映いばかりの美しさにも、目を見張る。
ゴミ箱のようだった部屋をキレイに片付けて、見違えるようにしたシベル。
若く美しく自由奔放なシベルに、ジャイトが心惹かれてしまうのも、当然の成り行きだ。

愛のない結婚から始まった、不器用な恋。
幸せな食卓を挟んで幸せな気持ちになったり、シベルの言葉に傷ついたり、くたびれた中年男ジャイトの純情な思いが、手に取るように伝わってきて、もどかしくも切なかった。

パンクの激しいビートに乗って、感情が高まる。

2人が幸せになるかもしれないという予感の中で起こる、悲劇。

ハンブルクで始まった激しい愛の物語は、イスタンブールで終わる。

命がけで愛し愛を失った者は
私のように魂を失うのか

場面転換の時に挿入される、メランコリックな旋律と哀しい歌詞のトルコ音楽。
この物語が、普遍的な愛の神話のように思えた。

ジャイト役のビロル・ユーネルにやられた。破壊的な絶望の中に、優しさを滲ませる目。ひげの濃い、くたびれた姿に漂わせる色気。
シベル役のシベル・キケリも、強烈に印象的。若さゆえの刹那的な衝動が、美しくもやるせなく、心に残った。

ちょっとした疑問は、ジャイトがシベルの従姉にシベルへの思いを語るのが、英語だったこと。ジャイトはトルコ語がそれほどうまくないと言っていたから、2人の共通言語=英語で思いを伝えたのだろうか。
トルコ語とドイツ語の混在具合もそれほど聞き分けられたわけではないのだけれど。

シアターN渋谷にて(公式サイト

監督/脚本:ファティ・アキン
音楽コンサルタント:クラウス・メック
出演:ビロル・ユーネル、シベル・ケキリ、カトリン・シュトリーベック、グーヴェン・キラック、メルテム・クンブル

Gegen die Wand/Head-On  2004  ドイツ=トルコ

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コメント

TB有難うございました。
見ている映画とかお芝居とかが近くて
びっくりしていますv
知らずにユーロスペースなどでお会いしているかもしれません。
波津彬子さんも大好きです。
どうぞ宜しくお願い致します。

はじめまして。
TB&コメントありがとうございました。
ビロル・ユーネル素敵でしたね~。
上記、英語の話、どこかのブログで読んだなー、と思ってさっき行ってみたら、いわいさんと思われるコメントがありましたので、疑問解消でしょうか?
日本人には理解しづらい部分ですが、移民2世のアイデンティティの複雑さは、ドイツ=トルコだけでなく、フランス=北アフリカ、イギリス=パキスタンなども似た感じなのでしょうね。

contessaさん、いらっしゃいませー♪
見ているものが近いというのはうれしいです。
自分勝手に感想を書いているので、いろいろと突っ込んでいただけるとありがたいです。
歌舞伎なんて毎月観ているけれど、それほど知識がないので、お恥ずかしい限りです。
おぉ、波津彬子さんもお好きですか。
こちらこそ、よろしくお願いします。

わかばさん、いらっしゃいませー♪
ビロル・ユーネルの魅力にはすっかりやられてしまいました。
この映画はとても気に入ったので、いろいろなところにお邪魔しましてます。
英語の件についての記事も読みました。
疑問が完全に解消したわけではないけれど、なるほどーと思いました。
言葉を使った表現は、その言語を知らないと深く理解できないもどかしさがあります。
でも、そういうところがわからないとしても、力のある映画というのは心を揺さぶるものだと思いました。この映画のように。

こんばんは!早速、お邪魔させていただきました。
ジャイトとシベルは勿論の事、ロックから民族音楽まで音楽も深く印象に残りました。
いわいさんが書かれているように、言葉についても考えてしまいました。言葉は直接、人のアイデンティティに関わってくるだけに難しい事柄ですよね~。
これからも、よろしくお願いします。

メルハバ!
気に入っていただけて嬉しいでっす。
実は私、2回目観に行きました♪

>ジャイトがシベルの従姉にシベルへの思いを語るのが英語だったこと

私は、第三の言語を使ったことで、彼の心の拒絶感を感じました。
親密さなどを排除した儀礼的な回答という印象。
あんたには何もわかりゃしないぜ感が強まったというか。
せつなさを感じるシーンでもありました。

ドモドモー♪
先日は、TB、コメントをありがとうございました。

いやー、良かったですよねーー・・・
大人のビターなラブ・ストーリーでしたよねん。
>場面転換の時に挿入される、メランコリックな旋律と哀しい歌詞のトルコ音楽。
そうそう、コレがまたまた良い演出でした!!
ヒリヒリとした中にも、この演奏によって寓話的なものを感じましたですよ。
ホッと息をつげる、そんな間合がありました。
切なさを感じる映画では、今年ピカイチかもですね。

rubiconeさん、いらっしゃいませ♪
素晴らしい映画でしたよね。
主役の2人はもちろん。
音楽の使い方はいろいろな点で、とても映画的だったと思います。
スクリーンで観ることができて、本当に良かった。
言葉の問題は、難しいですよね。文化的な背景もあると思うし。聞いてわからないことが、もどかしいです。

こちらこそ、よろしくお願いしまーす。

かえるさん、こんばんはー。
「メルハバ」って、言うんですか。トルコはまだ行ったことがありません。ボスポラス海峡を見てみたいー。

ドキドキしながら、かなり熱くなって観てました。
2回観たのですか。わかります。
激しい愛の物語が、トルコ音楽で中和されて、マイルドな後味になった気がします。その辺りは、監督のセンスに脱帽!
>彼の心の拒絶感を感じました。
かえるさんの解釈のほうが、納得できます。
ただ、ジャイトのトルコ語がどの程度の下手さなのか、知りたいところでもあります。
あの場面の、ジャイトも切なかったですねー。

Puffさん、こんばんはー。
本当に素晴らしかったですーー!!
そう、トルコの音楽が、寓話的なものを感じさせてくれました。
これがなかったら、映画の印象がかなり違っていたと思います。
>切なさを感じる映画では、今年ピカイチかもですね。
確かに!本当に切なかったです。
ビロル・ユーネル!

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