『71フラグメンツ』
再追加上映 「これが最後だ!!ハネケ映画祭」のユーロスペースへ。
ワタクシ的にも、これが最後。
短い期間にハネケ作品を5本!ハネケにどっぷりと浸かって、疲れ気味。
1993年12月23日。19歳の大学生が銀行で銃を乱射して、3人を撃ち殺した後、本人も自らの頭を打ち抜いて自殺する。
という事実を冒頭で提示して、映画は始まる。
『71フラグメンツ(偶然の時間序列における71の断片)』というタイトル通り、犠牲者と加害者となる人々が営む日常生活の断片を切り取って、事件の発生までの経過として並べてみせる。
銀行の窓口で働く女性には、独り暮らしの老いた父親がいる。
卓球のトレーニングをする大学生は、コンピュータを使ったパズルゲームソフトを作成して、友だちと遊ぶ。
銀行の警備員には、妻と赤ん坊がいて、子育てに苦労している。
ルーマニア難民の少年は、路上生活をしている。
子供のいない夫婦は、養子を迎えたいと思っている。
登場人物は、誰一人幸せそうではない。
軍から盗み出された銃は、巡り巡って大学生の手に渡るけれど、彼だって事件を起こそうと計画をしているわけではない。
“その時”は突然起こる。そして、あっけなく終わる。
誰もが、ちょっとした不満を抱えて生活している現代の社会では、この事件のようなことがいつ起こるか分からない。誰もが、加害者になる可能性があるのだ。
同じ2つのニュースが2回流される。ひとつ“戦闘状態のサラエボ市民のささやかな願い=クリスマスを和やかに過ごすこと”で、もうひとつは“マイケル・ジャクソンが疑惑への弁明を放送したということ”。
この2つのニュースが、続けて流れるのはある意味で滑稽なことだ。
それにしても、ピンポンマシーン(?)でひたすらピンポン球を打ち込み続けるシーンの息苦しさったらなかった。
ハネケ映画祭で4本プラス『隠された記憶』で合計5本。
まとめてハネケ作品に触れたことによって、傾向がつかめたような気はする。
何か起こるぞーと待ち構えている観客と勝負して、きっちりと満足させるハネケ監督は、やはり凄かった。
ユーロスペースにて
監督/脚本:ミヒャエル・ハネケ
出演:ガブリエル・コスミン・ウルデス、ルーカス・ミコ
71 FRAGMENTE EINER CHRONOLOGIE DES ZUFALLS/
71 FRAGMENTS OF A CHRONOLOGY OF CHANCE 1994 オーストリア
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