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『團菊祭五月大歌舞伎』昼の部

May_chirashi 3年ぶりの團菊祭は、病気療養中だった市川團十郎の復帰もあって、大にぎわい。着物をお召しの方もいつもより多い気がする。
久々に明るい演目立てで、気持ちよく歌舞伎座を後にすることができた。そして、幸せな気分が残った。

一、「江戸の夕映(えどのゆうばえ)」大佛次郎作/市川團十郎演出
慶応から明治となった年の夏。旗本本田小六は許嫁のお登勢に去り状を渡し、旧幕府軍に加わって蝦夷地へ向かう。小六の友人旗本堂前大吉は、柳橋芸者のおりきと一緒になり、町人として暮らし始める。一年後、函館の戦に敗れ、東京に戻った小六は、大吉と出会う。

久しぶりの海老蔵が、とても痩せていてシャープな顔になっていたのにびっくり。眼がギラギラとしていて、小六という武士の意地に拘る不器用な男にぴったりだ。
目立っていたのは松緑だった。時代の移り変わりを受け入れ、侍を捨てる大吉。柔軟で情に厚い男がハマっている。こちらのほうが主役みたいな存在感。
そして、菊之助が気っ風のよい江戸っ子芸者。粋だ。松緑とのバランスも良くて、そこはかとなく色気も漂っているような。

侍の世が終わったのに、武士の意地を貫こうとする小六と出会い、切々と語りかける大吉。酒を酌み交わすその時に、通りかかるおりきとお登勢。
雨上がりの美しい夕焼けに、感動的な再会が映えた。
花道から走り出てくる、おりきとお登勢の下駄の音に不覚にも胸にこみ上げてくるものがあった。
美しくもさわやかな幕切れが、しみじみと心に残る。

お登勢の松也もけなげさがマル。侍の威厳を保つ、これまた不器用なお登勢の父親は團蔵で、静かな演技で武士の時代が終わってしまった哀愁を漂わせていた。あまりやらないような役柄だけれど、しみじみとさせられて良い。こういう役って、歌舞伎ではあまりないような気がする。

東京になった江戸の人々が、薩摩からきた田舎者を嫌っている描写などあって、江戸っ子の意地みたいなものも、見せている。薩摩の田舎もんが、嫌なやつばかりではなかったとは思うけれど。

本田小六:海老蔵/おりき:菊之助/堂前大吉:松 緑/おきん:萬次郎/吉田逸平太/お登勢:松也/松平妻おむら:家橘/松平掃部/堂前大吉:松緑

二、「雷船頭(かみなりせんどう)」常磐津連中
隅田川に漕ぎだした船頭の前に、雷が落ちてくる。
軽妙で楽しい舞踊。ころころとした雷の右近が可愛らしい。
船頭:松緑/雷:尾上右近

三、歌舞伎十八番の内「外郎売(ういろううり)」
本日のメインともいうべき、團十郎復帰の一幕。なんとなく客席がソワソワしているように感じられる。

幕が開くと富士山を背景にして、豪華な面々が居並ぶ。軽く興奮。

そして、揚幕から團十郎の声が聞こえてきたところでドキドキ。それほど、ファンなわけではないはずなのに、気分が高揚するのがわかる。外郎売実は曽我五郎が花道へ姿を現すと、万雷の拍手。初日から9日も経っているけれど、成田屋が復帰したことを喜ぶ気持ちを持って歌舞伎座に来ている人も多いのだろう。
團十郎のように明るくて大らかなオーラの持ち主は他にいない。歌舞伎界になくてはならない人なのだ。「待ってました」という気持ちで一杯になる。
狂言半ばで、菊五郎が正面に進み出て團十郎と並び、「口上」を述べた。2人が並んでいるところをみて、更に胸が熱くなった。

“ういろう”は薬で、その故事来歴や効能を、早口で言い立てるのが見所。早口言葉をたたみかける迫力は今ひとつだったかもしれないけれど、團十郎の「外郎売」はやはり格別。

復帰を祝うためだろう、豪華な配役もごちそうの一幕。

外郎売 実は曽我五郎:團十郎/曽我十郎:梅玉/小林朝比奈:三津五郎/梶原景時:團蔵/梶原景高:権十郎/茶道珍斎/遊君亀菊:亀寿/遊君:喜瀬川:右之助/化粧坂少将:家橘/大磯の虎:萬次郎/小林妹舞鶴:時蔵/工藤祐経:菊五郎

四、「権三と助十(ごんざとすけじゅう)」岡本綺堂作

神田橋本町の裏長屋を舞台に、江戸の長屋の人々の姿を生き生きと描いた芝居。

年に一度の井戸替えで大騒ぎの最中、家主六郎兵衛の元に、牢死した彦兵衛の息子彦三郎が訪ねてくる。彦兵衛はこの長屋に住んでいたのだった。彦兵衛の無実を訴える彦三郎。
長屋に住む駕篭かきの権三と助十は、事件当夜に不審な人物を目撃したと証言し、家主は奉行所へ訴えでるが、事件はなかなか解決しない。

井戸替えというのは、「井戸の水をすっかり汲み上げて井戸を掃除すること。近世には、7月7日に行うことが多かった。いどさらえ。晒井(さらしい)<夏の季語>」(by広辞苑)だそうで、夏の風物詩だったみたい。いろいろな格好をした長屋の住人たちが、花道までズラズラと出てきて楽しい。
権三はそれをサボろうとしていて、隣家に住む助十兄弟とのやり取りが可笑しいし、権三とその女房おかんとのポンポンと言い合うさまも楽しい。

菊五郎が権三、三津五郎が助十、2人の息もぴったりで、安心してみていられる面白さ。
全体的に、役者たちの台詞回しのうまさと間のよさが可笑しくて、コントのように笑えてしまう軽い芝居なのだけれど、粋で人情に厚いところもきっちりと伝わってくるところが、菊五郎劇団ならでは。

名奉行大岡越前守が真犯人を明らかにするために仕組んだことが、功を奏して大団円となる。

幕切れでグダグダになってしまうことがあったらしいこの演目。この回は、すっきり和やかな終わりで、とても良かった。

あ〜楽しかった。

権三:菊五郎/助十:三津五郎/権三女房おかん:時蔵/助八:権十郎/小間物屋彦三郎:松也/願人坊主願哲:亀蔵/願人坊主雲哲:市蔵/猿廻し与助:秀調/左官屋勘太郎:團蔵/石子伴作:彦三郎/家主六郎兵衛:左團次

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コメント

いわいさま

お久しぶりです。スキップです。
「團菊祭」-舞台にも客席にも、團十郎さんの復帰をお祝いする気持ちがあふれていて、ほんとに観ているこちらまで温かい気持ちになりました。それぞれのJr.の成長も楽しみですが、團十郎さんにも菊五郎さんにも、これからもまだまだ色んな役を見せていただきたいですね。

スキップさん、こんにちは。
多分、初めましてかと思います。(間違えていたらごめんなさい)

本当に、舞台からも客席からも、歌舞伎座全体でお祝いしていましたよね。その場にいられたことが幸せでした。
團十郎さんには、無理をしていただきたくはないけれど、まだまだ色んな役を見せていただきたいですわ。
人間国宝になっても、全然枯れない菊五郎さんのパワーにもいつも圧倒されています。

いわいさま

ごめんなさい。
以前からこちらのブログを拝見していて、もうすっかり前にコメントした気になっていました(恥)。
いわいさんのご覧になったお芝居が私と重なることが多く、いつも楽しみに読ませていただいていたのですが、今回歌舞伎も同じものを観たことがわかってうれしくなって舞い上がったのです、きっと。
これに懲りず、またお邪魔させてくださいね。今後ともよろしくお願いいたします。                                                                   

スキップさん、こんばんはー♪
以前から読んでくださっていたのですね。
ありがとうざいますー。
芝居のセレクションが似ているのですね。うふ。
ブログの更新が実時間に追いついていない、情けない状態のわたくしですけれど、落ち着いたら、スキップさんのところにもお邪魔させてくださいね。
こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします。

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     「小田原名物 外郎は~」と、まだ姿が見える前、揚幕の向こうからあの声が聞こえてきただけで目頭が熱くなりました。 團菊祭 五月大歌舞伎 5月6日 昼の部観劇 團十郎さんの『外郎売』に、菊五郎さんの工藤祐経、小林朝比奈に坂東三津五郎 妹舞鶴に中村時蔵を..... [続きを読む]

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